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大阪高等裁判所 昭和48年(ラ)469号 決定 1974年6月06日

抗告人 前田伸雄(仮名)

遺言者 藤井リキ(仮名)

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告の趣旨および理由は別紙記載のとおりである。

本件申立の趣旨、遺言者の出生および死亡の年月日、本件遺言の内容、ならびに本件遺言の効力の判断は、原審判二枚目表裏にわたる括弧内の部分を除き、次に付加するほか、原審判理由記載のとおりであるから、これを引用する。

遺言も法律行為であるから、それが有効に成立するには内容が確定しているか確定することができるものでなければならないところ、本件遺言の第一項は「藤井家ヲツイデクレル前田家(伸雄)ノ小供モノ中カラ一人ニ土地ヲヨビ家屋ヲアゲマス」というのであり、大阪家庭裁判所昭和四八年(家)第一七五〇号遺言書検認事件記録によれば前田伸雄の子は五名現存することが認められるから、土地および家屋をもらう者すなわち受遺者は不確定である。かりに、本件遺言の第二項および宛名の部分を参酌して、「ツイデクレル」者一人の選定を前田伸雄および原徹に一任する趣旨であると解するとしても、どういう標準に従つて選定するか、また右両名の意見が相反するときはどうなるかは不明であるから、受遺者は確定し得る方法が示されていると解するのは困難である。要するに、本件遺言のうち遺贈の部分は内容が不確定である点においても無効であるといわなければならない。(昭和一四年一〇月一三日大審院判決民集一八巻一一三七頁参照)

また、本件遺言の第二項の文言は、遺言者に関する死後のすべてのことを右両名に委ねるという趣旨に解することはできるけれども、それだけではあまりに漠然としていて、民法八九七条一項の祖先の祭祀を主宰すべき者を指定したものと解するのは困難である。

以上を要するに、本件遺言は無効であるというほかはなく、従つて本件申立は却下を免かれない。これと同趣旨に帰する原審判は相当であつて、本件抗告は理由がないから、これを棄却することとして、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 柴山利彦 裁判官 東民夫 篠田省二)

参考 原審(大阪家裁昭四八・一二・八審判)

申立人 前田伸雄(仮名)

遺言者 藤井リキ(仮名)

主文

本件申立を棄却する。

理由

申立人は、「遺言者亡藤井リキが昭和三七年九月二日になした遺言の遺言執行者に、住所大阪市東住吉区○○町○○番地原徹を選任する」との審判を求めるものであるところ、本件ならびに当裁判所昭和四八年(家)第一七五〇号遺言書検認申立事件の各記録によれば、亡藤井リキは、昭和三七年九月二日別紙記載のとおりの遺言をなし、昭和四八年五月五日死亡したものであることが認められる。

しかしながら本件遺言のうち、まずその一項について遺言者の真意を考えると、遺贈の条件である「藤井家ヲツ」ぐとの文言は、遺言者と法律上同一の氏である「藤井」姓(夫の氏)を名乗り、且つ遺言者の夫の祖先の祭具、墳墓などを承継し、祭祀を主宰するとの趣旨のものと解されるところ、上記資料によれば、遺言者の夫、その直系尊属および子はいずれも既に全員死亡していることが認められ、現行法は旧法の如き廃絶家再興は許さないのであるから、もはや養子縁組その他の現行法で認められる方法により遺言者と法律上の民を同一にするということは法律上不能であるものというべく、従つて上記一項は不能の停止条件を付したものとして無効であるといわねばならない。(単に遺言者の夫の祖先の祭具、墳墓などを承継するだけの者は上記の「藤井家ヲツ」ぐ者にはあたらないものと解すべく、またその者は民法八九七条に定めるところにより、被相続人である遺言者の指定、これがないときは慣習、慣習が明かでないときは家庭裁判所の指定によつて定まるのであり、しかも定まつた場合には、被相続人の死亡の時点において法律上当然に祭具などの権利を承継することとなり、対抗要件の具備など何らの手続を要しないのであるから、仮に本件遺言二項の「ツイデクレル者ガナイバアイワ」「ヨロシクタノム」との文言が祭具などの承継についてもよろしくたのむとの趣旨をも含むものとしても、その点については執行の観念をいれる余地は全然ないものというべく、そのために遺言執行者を選任する必要はないものといわねばならない)。

また本件遺言二項の文言から察せられる遺言者の真意は、上記の如き「藤井家ヲツ」ぐ者がない場合、本件申立人(伸男は伸雄の誤記)および本件遺言執行者候補者(撤は徹の誤記)に対し、遺言者の遺産相続につき、両名協議のうえ、共同相続人の相続分を指定し、あるいはまた遺産分割の方法を指定することをそれぞれ委託するというにあるものと解されるのであるが、民法九〇二条、九〇八条によれば、そのような委託は第三者に対してなされるべく、共同相続人のうちの一人または数人に対してなされた委託は無効と解すべきであり、上記資料によれば、上記の委託を受けた両名はいずれも遺言者の相続人であり、他に九人の共同相続人の存することが認められるのであるから、同項の上記各委託の遺言もまた無効であるといわねばならない。

そうすると本件遺言は、その一、二項はいずれも無効であり、三項は法律上無意味であるから、結局なきに等しく、遺言者の遺産については各共同相続人が法定相続分に応じ協議のうえこれを分割すべきものであつて、執行者において遺言として執行すべき事項は何らないものというべく、従つてその執行者の選任を求める本件申立は失当として却下を免れない。

よつて、主文のとおり審判する。

(家事審判官 山崎杲)

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